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 2回生の直木賞作家白石一郎さんは、本来このコーナーで真っ先に取り上げるべき誇れる先輩の一人である。専門家が幾多の紹介をしている方を、素人がどう紹介すべきかを考えあぐねた結果として、できるだけ同窓生という観点から取り上げてみたい。

 
     
 

白 石 一 郎 著  「 島 原 大 変 」

 
 

1985年4月刊/文芸春秋/1200円

 
         
 
島原大変
 

 白石さんの多くの著作の中から本書を取り上げたのは、他でもない。まず、この本の装丁を5回生の畑農照雄さんが担当しているからである。

 話は、1792年(寛政4年)の雲仙岳の噴火時を舞台にしている。大災害が発生する混乱の中で、武士や町医者の活躍を目の当たりにして、若い医師が人間的に成長していくさまを生き生きと描いてある。

 研究者によると、白石さんは、「調べ魔」と言われていたそうである。作品を書くにあたって、丹念に史実を調べたうえで構想を練られていたようであり、それが作品の説得力を増しているのであろう。

 
         
   白石さん自身、この作品を書いたときに感じたこととして
「天変地異が起これば、武士の活躍はすごかった。ふだんは苛斂誅求ばかりしているみたいだけど、いざというときは町民を助けるために燃えるところにも崩れたところにも、もぐりこんで助けようとして命を落としている。・・・彼らには身を挺して助けるという精神があります。為政者として何をすべきか、絶えず考えていました。貧しい暮らしに耐えながらも志だけは高い。儒教のいいところをきちんと身につけています。
・・・僕は考え直しましたよ。我々の考えている士農工商という階級だけで一概に見てはいかんのではないか。」(オール讀物2004年4月号)
と述べておられる。
  平成新山  
平成新山
         
 

 作品が書かれてから約8年後の1990年(平成2年)から始まった普賢岳の噴火と翌年6月の大火砕流という災害を目にしただけに、200年前でありながら、小説の舞台はリアルに迫ってくる。

 なお、「島原大変」には、「ひとうま譚」、「凡将譚」、「海賊たちの城」も収められている(文庫本は、文春文庫)。

 
 

 直木三十五賞を受賞された白石さんだが、そこに至るまでは、受賞歴という面では、決して順調ではなかったようである。

 この「島原大変」は、昭和57年上半期の候補作に選ばれたものであるが、昭和45年の「孤島の騎士」以来、「火炎城」「一炊の夢」「幻島記」「サムライの海」に続いて本作品、さらに「海賊たちの城」が候補作となり、ようやく昭和62年上半期の「海狼伝」で受賞されている。しかし、それまでのいずれかの候補作で受賞してもおかしくなかったのではないかと感じるのは、私だけではないであろう。

     
直木賞受賞祝賀会
直木賞受賞祝賀会
(「青嵐に立つ」より転載)
 

 白石さんの大きな魅力の作品群は、1987年の直木賞受賞作の「海狼伝」や続編である「海王伝」をはじめとする、スケールの大きな海洋歴史小説である。それらの中には、1992年の柴田練三郎賞を受賞した「戦鬼たちの海」、1999年の吉川英治賞を受賞した「怒涛のごとく」、山田長政を描いた「風雲児」、三浦按針を描いた「航海者」などもある。

 それらの作品を味わうに際しては、是非、2001年8月〜9月の「NHK人間講座」のテキスト「サムライたちの海」か、放送終了後に加筆・改題のうえで出版された「海のサムライたち」(NHK出版協会、文庫版は文春文庫)も一読されることを薦めたい。

 
  サムライたちの海  

 ここで、白石さんは、「日本は四面を海に囲まれた島国でありながら、日本国民の海への関心はきわめて薄い。これは環境に適応するはずの人間としてはおかしなことと言えよう。本来、人々は海を眺めれば、遥か水平線の彼方に何があるだろうと空想し、その彼方からやってくる船や人物に大きな興味をよせるはずだ。」と述べておられる。

 そして、「せっかくの海洋国家でありながら、日本人が海への関心を失い、同時に国際感覚を摩滅させてしまったのは、鎖国政策の影響だろう」と指摘してされている。

 さらに、「日本人の海への関心を高めるお役に立てば、本当にうれしい。」と講座を引き受けられた気持ちを述べておられる。

 
 
 この本は、多くの海洋歴史小説群の「エッセンスの通史」(川勝平太氏)と位置づけられるべきもので、各小説の時代背景等を知ることができる。また、当時の船や地図など、数々の資料や図版が収められており(当初のNHKテキストに、最も多く掲載されている)、各小説をより深く読むうえでも大いに役立つものである。

 白石さんは、1931年釜山で生まれ育ち、中学2年で終戦を迎えて引き揚げられた。柳川の伝習館中学を経て、佐世保第2中学に編入、学制改革によって佐世保北高生となり、1950年に2回生として卒業されている。

 高校時代には読書に没頭されていたようで、「佐世保北高創立30周年記念誌」(1979年)に「混乱期」というエッセイを寄せておられる。
「私は高校時代は小説ばかり読んでいて、しかも徹底した夜型だったから、朝は遅刻の連続、すでに授業のはじまった教室にこそこそしのび込んでいた記憶がある。『お前、いくらなんでもひどかぞ』と友人に注意され、深く反省して、それ以来遅刻しそうな日は休んだので、おそらく欠席率は校内でも、1,2位だったろう。」

 2004年9月20日に逝去。二人のご子息(白石一文さん・白石文郎さん)も作家である。

 
   
 
(文責・宮田 学)
 
     
   
   
  【参考までに】  
  長崎県文化振興室のHPでは、白石さんの小説の舞台となった場所を、3つ紹介している。  
  長崎県文化振興室HP:文化百選:うた・文学散歩編(目次)  
  @「島原大変」(島原市)  
  A「サムライの海」(有川町)  
  A「海狼伝」(厳原町・上県町)