「樹木医」という職業があるのをご存じだろうか? 文字通り、樹木のお医者さんだが、日本ではこの職業に従事している人は、わずか千人に満たない。安部さんはその一人だ。樹齢何百年という老木を天然記念物として残すために土壌改良をしたり、町に残っている樹木を切るべきか残すべきか、その判断や診断は全て樹木医に委ねられる。動物に獣医がいるように、樹木を診る医者がいるのは至極当然だが、恐らくあまり聞き慣れない職業だろう。それまで山登りが主体の生活だったが、28歳から15年間植木屋で修行をし、2001年、中国の大学との共同プロジェクトに参加しクーラカンリに登ったすぐ後、試験を受け樹木医になった。最初は仕事がなく保母として働く奥様(かつての山仲間)の世話になったと、笑いながら話す。
だが、次第に仕事がどしどし舞い込むようになった。安部さんしかできない仕事が沢山あるからだ。松の手入れができる人はあまりいない。20メートルを超える高木の剪定作業が必要な仕事は、安部さんのようにロッククライミングの経験である人に必然的に声がかかる。そして、今では安部さんは“日本で一番忙しい樹木医”となった。自分のことを昔は“山屋”、現在は“植木屋さん”と言い笑う安部さんは、好きな事を夢中でやり、気が付くと仕事にしてきた希有な人だ。 |