800年の 大楠の 幹に手触るれば かさかさとして 柔らかきかな
葉を落とし 樹脂垂らし病む 桃の木に ただ一輪の 赤きいのち咲く
20年 前の家計簿 広ぐれば 亡き妻はこれに 日記も書きたり
独り居の 我を慰むと 庭先の サザンカの花 すこし揺れたり
ほのぼのと われを包める 花明かり 一すぢの道 ここより始まる
赤襷に 手甲足絆の 大原女が 道問ふ我に 会釈くれたり
水無月の 夏越の祓へ 受けむとて 人型の紙に わが息を吹く
誇りもて 身のあるかぎり 歌ふべし 蝉らの鳴くを 聞ききつつ思ふ
無惨にも 吹き倒されし 物置の 屋根に動かぬ バッタが一つ (18年台風13号)
ほろほろと 冬の葡萄を 口に含み 遠き青春の 日を湧かしめむ
小さきまま 見向きもされず 震へつつ 哀れを見する 冬の朝顔 |