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  筝曲演奏家として、古典から現代曲までジャンルにとらわれず、新作初演、録音、即興演奏などをこなす36回生の丸田美紀さんは、国内外の音楽祭やリサイタルに参加する他、ソロとしても精力的に活動している。年間を通して多数の演奏をこなす丸田さんの演奏会の中でも、今回は講談の会での演奏をレポートする。

 
     
 

丸 田 美 紀 さ ん の 琴 の 演 奏

 
         
 

  東京・下町。浅草にある酒と料理の活魚店「大漁料理 魚や もへい」では、「もへい寄席」という講談と落語を料理と共に楽しむ会を定期的に開催している。2006年4月9日(日)に行われた「第84回もへい寄席」は、13時からの寄席の前にふだんの夜なら美味しい魚と酒を楽しむ店の中で、都内の同様の店で食するならば相当な金額がするだろうと思われる食事が出たあと、3階の会場で寄席が行われた。
当日のプログラムは、講談師の宝井琴梅さんの講談の前にお弟子さんである宝井梅星さんの講談、ゲストとして丸田さんの琴(筝)の演奏があり、常連客らしき中高年の人々で埋め尽くされた会場は、日曜日の午後を2200円という安価な値段で、本物の味をいただいたうえで、すばらしい芸を鑑賞することができて、さぞかし至福の時間をもつことができたのではないだろうか。

 
         
 
 
 
         
 

 さて、丸田さんの演奏。寄席が始まる前に楽屋を訪れたところ、演奏の準備で忙しいにもかかわらず気さくにインタビューに答えてくれた。その場では溌剌としてモダンな現代人のような印象を受けたのだったが、出番となると一転して渋いわさび色の着物地で作られた衣装で現れた丸田さんは、高座でトークを交えながら粛々と演奏を始めた……。

 中でもシーズンにふさわしい「さくら さくら」は、当日風が強かったため桜がその淡い花びらを路上に落とし、それがまた優雅な桜色のカーテンを形成していたために儚さと典雅さを強調し、改めて桜が日本人の精神風土にいかに強い比重を占めていたかを実感した次第。ポロンポロンというひとつの音が静かに心の奥深くじんわりと分けいってくるかのような重厚な響きとなり、心洗われる思いがした。
  丸田さんのしなやかな指は、桐の木でできた琴(筝)を細く覆う13本の弦の上を自由自在に動きまわる。職人技としかいいようのないその指の動き、遠き日々に誘う郷愁にも似た静かで重い琴の音の甘美な調べ。日々忘れかけているピュアな気持ちを呼び覚ましてくれる清澄な調べ……。
  最後の曲「涙そうそう」の頃には丸田さんの額からは汗がポロポロと……。演奏に集中し、完璧なひとつの音をだすために、奏者たちは全身全霊をかけてているのだ、と実感した次第。

 
           
   
 

  続く宝井琴梅さんのパワーあふれる表情豊かな講談は、完全に聖なる領域へ心だけスリップし、午後のまどろみにいた私を、まるで渇を入れるかのように〈静〉から〈動〉へと転じさせたのだった。


伝統芸能の栄えた街で、古の人々が残した貴重な財産を現在に引き継ぐ浅草で、すばらしい古典を鑑賞できた有意義な一日であった。

       (文責:桑島まさき)

 
           
 

*なお、「もへい寄席」の問い合わせ先は次の通り。 「魚や もへい」 (03-5828-8581)

 
 
 
 
 

丸田さんの演奏スケジュールは、丸田さんのHP に掲載されています。
  

また、丸田さんは、キングレコードから、筝のソロ演奏等を収めたCD 「鳥のように」(KICC 343)も出しています(税抜価格 2,857円)。丸田さんのHP からお求めになることもできます。

 
         
   
         
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