さて、丸田さんの演奏。寄席が始まる前に楽屋を訪れたところ、演奏の準備で忙しいにもかかわらず気さくにインタビューに答えてくれた。その場では溌剌としてモダンな現代人のような印象を受けたのだったが、出番となると一転して渋いわさび色の着物地で作られた衣装で現れた丸田さんは、高座でトークを交えながら粛々と演奏を始めた……。
中でもシーズンにふさわしい「さくら さくら」は、当日風が強かったため桜がその淡い花びらを路上に落とし、それがまた優雅な桜色のカーテンを形成していたために儚さと典雅さを強調し、改めて桜が日本人の精神風土にいかに強い比重を占めていたかを実感した次第。ポロンポロンというひとつの音が静かに心の奥深くじんわりと分けいってくるかのような重厚な響きとなり、心洗われる思いがした。
丸田さんのしなやかな指は、桐の木でできた琴(筝)を細く覆う13本の弦の上を自由自在に動きまわる。職人技としかいいようのないその指の動き、遠き日々に誘う郷愁にも似た静かで重い琴の音の甘美な調べ。日々忘れかけているピュアな気持ちを呼び覚ましてくれる清澄な調べ……。
最後の曲「涙そうそう」の頃には丸田さんの額からは汗がポロポロと……。演奏に集中し、完璧なひとつの音をだすために、奏者たちは全身全霊をかけてているのだ、と実感した次第。 |