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  長崎県在住の会社員、24回生の内川政利さんの、7年間の苦しい浪人生活を題材にして書いた自伝的小説を紹介する。(編集部)  
     
 

内 川 政 利 著 「さ れ ど 我 が 青 き 迷 路 に」

 
 

新風舎刊/本体1400円

 
         
 
されど我が青き迷路に
 

2006年6月12日付け朝日新聞の記事「少子化による学生獲得に苦しむ全国の大学が、大量に定年退職する団塊世代の獲得に動いている」に目が止まった。

2007年には志願者数と定員が一致する「全入時代」が到来するだろう、とある。

あー、私たちの時代にもっと早くこの制度が取り入れられ、「入るのは簡単、出るのはひと苦労」だったらどんなによかったことか、とふと思った。

 
         
  主人公 かおる は、京都大学をめざす地方の名門高校(設定も北高となっている)の生徒だった。めざすのだから、当然受ける資格があるほどの秀才だったと思われる。しかし、一発勝負の本番で失敗。一浪、二浪と重ねていき、結果として7年も大学へ入るための時間を浪費してしまった。高校を卒業したが大学生ではない、社会人でもない。いま流行のフリーターでもない。どこにも所属していない受験生の郁。  
     
  居場所のない不安や苛立ち、取り残されていく寂しさ、気を遣ってくれる両親や友人たちの親切が身に染みるだけに罪悪感にさいなまれ、今度もダメなのだろうかという不安から自暴自棄になりかけたり、と既存の作家たちが書き続けてきた普遍的な文学のテーマである〈青春の孤独〉が、温かく励ましてくれる恋人との恋愛模様を絡めながら、確かな文章力で畳みかけるように語られていく。それは、読んでいて息苦しさを覚えるほど重厚な手応えだ。  
     
  確かに7年という歳月は重い。何故それほど固執しなければならないのだろうか、と主人公同様に考えてしまう。だが、郁はまるで憑かれたように受験という戦いに挑んでいく。破れても破れても、勝つことのみを信じて迷路にはまってゆく。迷路の出口が、自分にとって吉とでるか凶とでるかわからないだけに、受験生はただひたすらに偏差値をあげることのみに執着し、本番に全力をだしきることに万全を尽くすしか手がないのである。手応えがあったのに失敗したり、多くの人が身に覚えがある受験の風景が描かれ、通り過ぎた者には、懐かしくもあり苦々しくもあることだろう。  
     
  世界的にみても、熾烈な受験戦争を10代後半の若者がくぐり抜けねばならない日本の受験制度の実情が浮き彫りにされるものの、恐らく著者にはそのことに対する不満などはない。ただ、期せずして苦い季節を送った青春への哀惜の念があるのであり、俗っぽい〈折り合い〉という言葉など問題ではない。  
     
  それは、無駄に長い日々だったのだろうか?〈記憶の扉をこじあける行為〉=〈痛みの再現〉であるが、懸命に挑み続けた日々への鎮魂歌として本作を捧げることで、著者は又、永遠に続く競争の中に生きてゆくのである。それはこの世に生を受けた以上、引き受けざるを得ない現実なのだから。著者は当編集部宛の手紙に「常軌を逸していたようなこの年月に、私が一番欲しかったものは、自分だけが辛いんじゃないという心の慰めであったろうと思う」と書いている。  
     
  痛みを知る著者が、いまだ解決されない日本の大学入試制度の地獄にもがき苦しむ人たちに送るメッセージは、ズシリと心に響く。   
 
(文責・桑島まさき)
 
     
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